生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ)や生詰酒(なまづめしゅ)に仕立てる場合などをのぞいて、大多数の一般的な酒の場合、上槽から出荷までのあいだに火入れは二度ほど行なわれる。すなわち、一回目は貯蔵して熟成させる前、二回目は瓶詰めして出荷する直前である。とくに一回目の火入れは、成分に落ち着きを与え、その先の貯蔵中にどういうふうに熟成していくかの方向性を左右する。これをわかりやすくチャートにすると以下のようになる。
上槽 → 滓下げ1回目 → 濾過1回目 → 火入れ1回目 →貯蔵・熟成 → 滓下げ2回目 → 濾過2回目→割水→火入れ2回目 → 瓶詰め → 出荷
生貯蔵酒(なまちょぞうしゅ) 火入れ1回目をしない。杜氏蔵人言葉では「先生」(さきなま)、「生貯」(なまちょ)などという。
生詰酒(なまづめしゅ) 火入れ2回目をしない。杜氏蔵人言葉では「後生」(あとなま)などという。
生酒(なまざけ) 火入れ1回目も2回目もしない。杜氏蔵人言葉では「生生」(なまなま)、「本生」(ほんなま)などという。
生酒(なましゅ) 滓下げ1回目を施された上澄み部分の酒のこと。
以上のような前提の中で、生貯蔵酒や生詰酒は、少なくとも一回は火入れをしていて本当は「生」ではないわけだから、「生」を名称に含めるのは妥当ではない、という議論がなされている。
また、「生」好みの消費者心理を利用し、生貯蔵酒や生詰酒の「生」の字だけを大きく、あるいは目立つ色彩でラベルに印刷し、その他の文字を小さく地味に添えるなどして、あたかも生貯蔵酒や生詰酒が「生」の酒であるかのようにイメージを演出して流通させている蔵元もある。こういう傾向が行き過ぎたものは不当表示にあたる、と指摘する識者もいる。一方では、吟醸酒や純米酒のなかには「生詰」と表示しているだけでも、ほんとうの生酒(なまざけ)、言うならば「生生」も流通されるようになってきた。
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居酒屋など日本酒を出す飲食店のなかには、じっさいは本当の生酒(なまざけ)ではなく、生貯蔵酒や生詰酒であるのにもかかわらず、メニューや張り紙に「生酒」と書いて客に提示している店も多く見かける。生酒(なまざけ)は、保存や流通のコストが高くなり、それだけ販売価格も高くなるものである。それを、生貯蔵酒や生詰酒の値段でメニュー表示されたならば、とうぜん消費者は「割安だ」と勘違いする。こういう表示の仕方は、れっきとした偽装表示にあたるので、消費者はためらいなく指摘することができる。
貯蔵・熟成 [編集]
熟成の概要 [編集]
熟成(じゅくせい)とは、貯蔵されている間に進行する、酒質の成長や完成への過程をいう。 上槽や滓下げのあと、無濾過や生酒として出荷するために、濾過や火入れを経ないものもあるが、そうでない製成酒は通常それらの工程を経た後に、さらに酒の旨み、まろみ、味の深みなどを引き出すためにしばらく貯蔵(ちょぞう)される。
吟醸系の酒は、香りや味わいを安定させるために、半年かそれ以上、熟成の期間を持たせるものも多い。しかし、いちいち古酒、古々酒といった表示をするのは、吟醸の品格からして無粋であるというような感覚から、そういった表示はラベルにされないのが通常である。
非吟醸系であっても、本醸造酒や純米酒では、酒蔵のある風土の自然条件、仕込み水の特徴、杜氏が目的とするコンセプトなどさまざまな理由から、長期間貯蔵して熟成させるものがある。
熟成のメカニズム [編集]
火入れを経過させない酒においては発酵が止まっておらず、調熟作用(ちょうじゅくさよう)といって、アミノ酸分解や糖化により風味の自然調和が続いている。そのため、調熟作用によって最終的にその酒の持ち味を生み出している銘柄では、すぐに出荷せず貯蔵・熟成させるのは、欠かすことのできない工程の一部である。一般的に完全醗酵させた純米酒は熟成がゆっくりと進み、劣化しにくい。不完全醗酵の製成酒は、アルコールに分解されていない成分が多く含まれるため、酒質の変化は早いが劣化しやすいと言われている。
熟成の原因は、大きく分けて外部から加わる熱や酸素になどによる物理的要因と、内部で起こるアミノ酸を初めとする窒素酸化物やアルデヒドなどによる化学的原因とに分かれるが、具体的な理論に関しては未解明な部分が多い。たとえば、廃坑や廃線になったトンネルなど或る特定の場所で貯蔵すると、いくら温度や湿度など科学的に条件を同じにしても、他の場所で貯蔵するよりもあきらかに味がまろやかになる、といった例は多い。福岡銘酒会に加盟する16場の酒蔵が共同で使用している旧国鉄黒木町(くろぎまち)トンネルなどが一例である。そのトンネル内の何が、好ましい熟成に作用しているのかは未だ解明されていない。